悲しみを分け合って涙の数減らすより

喜びを分かち合えないほうがつらいね

H (エイチ) 2008年 12月号 [雑誌]

H (エイチ) 2008年 12月号 [雑誌]

久しぶりのエイチがすばらしくってよかった。わたしは流星の絆が好きすぎるのでほんとうによかった。
それからようやく読み終えた本。おぢさまと金魚のやりとりにどきどきしながら読んだわ。
蜜のあはれ (1959年)

蜜のあはれ (1959年)

「人を好くといふことは愉しいことでございますというのは、とても、たまらないよい言葉ね、人を好くといふことは、をぢさま、言ってごらん遊ばせ。」
「いやだよ、いい年してさ。」
「ね、一ぺんこつきりでいいから言つて見て頂戴、男の人の口からそれを聞いてみたいんだもの、人を好くといふことは愉しいことでございます、・・・・・」
「人を好くといふことは、・・・・・」
「愉しいことでございます、と、息をいれずにひと息に仰有るのよ、をぢさまつたら、歯がゆくてじれつたいわよ、人を好くといふことは愉しいことでございますと言ふのよ。」
「人を好くといふことは、・・・・・」
「また吃つたわね、ずっと一気につづけるんだと言つてゐるぢやないの。」
「人を好くといふことは、・・・・」
「すぐ、あとを言ひつづけるのよ、判らない方ね。」
「僕にはとてもいへない、かんにんしてくれ。」
「何て年よりのくせにはにかみやだらう、もう言はなくてもいいわよ。」
「慍つたね、ぢや言ふよ、人を好くといふことは人間の持つ一等すぐれた感情でございます。」
「ちがふわよ、勝手に言葉を作つてはだめぢやないの、人を好くといふことは、ほら、早くさ。」
「人を好くといふことは、・・・・」
「何てじれつたいおぢさまでせう、それで小説家だの何のつて可笑しいわよ、あたいの言葉の終わらない前に続けるのよ、人を好くといふことは、なのよ、あら、黙つちやつた。」
「・・・・・・・」
「言はないの、早くさ。」
「僕はだめだ、きみひとりで其處で何度でも言つてくれ、僕はばかばかしくなるばかりだ。」
「わかさがないのね。」
「何もないよ、すつからかんだよ、好きでも口にはいへない言葉といふものがあるもんだ。」
「あたいね、をぢさまみたいなお年よりきらひになつちやつた、幾らいつてもテンポが鈍くて、じれじれして噛みつきたいくらゐだわ。」
「金魚に噛みつかれたつて痛かないよ、いくらでも噛みつくがいいよ。」
「あんなこと言つてゐる、あたいだつて一生懸命に噛みついたら、をぢさまの痩せた頬のにくなんか、咬みとるわよ。」
「怖いね、大きな眼をして。」
「をぢさまと遊んでやらなかつたら困るでせう。呼んだつて返事しないからね。」
「慍るな、あやまる、きみが遊んでくれなかつたら、誰と遊んだらいいんだ。」
「ぢや、先刻のこともう一遍くり返していふのよ、ね、いいこと、人を好くといふことは、・・・・」
「人を好くといふことは愉しいものです。」

ここのところとか たまらなくなる。