パンを買いに

3時間ばかり車を走らせる。パン。とにかくパンのよい匂い。ずっしりとした紙袋のよい匂いとくふふと笑い出したくなるしあわせなその重み。1番人気のいちじくを練り込んだ甘めのセミハードパン。お店の自慢のバゲット。バナナと全粒粉&黒糖のスコーン。ドライトマトブラックオリーブのベーグル。我慢できずに車の中でもっちりとした歯触りのパン・トラディショナル。だって、焼いたりせずにそのまま食べるのがおすすめってあったのだもの。1口食べるたびに美味しいと壊れたラジオみたいに繰り返す。お昼ごはんは庭園を眺めながら飲茶や菊花茶。昔は苦手だったかぼちゃの種もぽりぽりと食べれる。庭はしとしととした雨でひときわ鮮やかになる。この街は水がきれい。この街は水があまい。3時のおやつにおとぎ話という名前を持つケーキ屋さんでいちごとピスタチオのマカロン。やわらかなガーゼに包まれた繊細な天使の羽。クレームダンジュはわたしの好きなチーズの味をしていた。ふわふわ。この街にきて1番最初に訪れた売り切れ次第閉店のパン屋さんはこのときすでに明かりが消えていた。コーヒーマイスターがいるというお城みたいな喫茶店で香ばしいコーヒー。雨はようやくあがる。それからイチゴゼリーみたいな空。おうちにつくころにはとっぷりと暮れていて。田舎の夜は正しい夜。夜は闇が濃い。